賃貸不動産を取り巻く業界の流れを振り返ってみます。
大野です。
僕が不動産業界に入ったのが2002年の7月、25歳の時です。それから随分と月日が流れ現在46歳となりました。約21年間、不動産業界にお世話になっている事になります。もうすぐ四半世紀。この期間に業界を取り巻く環境はとても大きく変わりました。
一番印象として強いのが、不動産情報のネット化でしょうか。
僕が業界に入った頃の不動産業界と言えば、まだ貸主さんの立場がとても強い時期でした。誤解をおそれずに言うと「貸してあげている」と表現してもおかしくないほどの立場の差。需要と供給バランスで言えば、物件が不足している状況。春になれば、出社すると会社の前に部屋探しのお客様の行列が出来ていた。なんていうのがわりと普通でした。
それに、情報もあまり開示しないのが不動産業界の通例でした。お店でお客様にお見せする物件の情報が入った資料ケース(しかも手書きのもの)が主な情報。決めセリフは「これしかない!」これが昔の不動産会社でした。
夏場は、物調といって物件の調達業務がメイン。営業マンは、街を歩き回って日焼けしながら空室を探します。オーナーさんを探して「うちでも紹介させてください!」と営業をかけていきます。夏場に日焼けしていない営業マンは仕事をしていない。よく言われたものです。
写真もカメラで撮ったものを現像に出して数日後にカメラ屋さんに受け取りに行ってました。出来上がった写真を見てうまく撮れたとか失敗したとか言いながらアルバムケースに収めていきます。その写真をお客様にもお見せするわけです。最初にデジカメとかで撮影した画像が瞬時にネットに上がった時の感動は忘れられません。いったい誰がどうやって何をしたらこうなるの?と不思議がったものです。
初めてメールで反響が来た時も、感動というか驚きの方が強かったです。
「メールで物件のお問合せが来ましたよ!」今なら日常茶飯事の出来事ですが、「メールで問い合わせってどういう事?なぜ電話じゃなくてそんな回りくどい事をするのだろう?」と、こちらも不思議がったものです。時に流れを痛感する話でしょ?
ネットで情報発信する事が主流となる流れと、貸手市場から借手市場に移り変わる流れは、ほぼ同時に進行したように感じます。それも一気に。時代の流れについていけないオーナー様も大勢いました。当時はだいぶ苦労しましたけど、今思い返せば、ご高齢の方に、ネットだ!メールだ!という事を理解していただくのは無理とは言わずも難しい事です。
賃貸物件もどんどん増えていき、需要と供給のバランスも崩れていき、必然的に貸主さんと借主さんのパワーバランスは逆転していきます。「貸してあげている」から「借りてあげる」へ。本当なら、どちらが上でもなんでもなく「貸していただいている」「お借りいただいている」と双方が心で思い合える関係が好ましいんですけどね。
そんな不動産業界の流れ、年度別に僕が思い出深い出来事や変更点などを紹介していきたいと思います。不動産業界は事故や事件などが起こると、重要事項説明に記載する項目が増えていくという特徴があります。僕がよく後輩に言う言葉「契約書って歴史そのものなんですよ。」時代時代によっていろんな条項などが書き足されてきた。そういえば、昔は契約書って薄っぺらかったもんね。
それでは、以下簡単な年表です。「僕の思い出深い」だから、「あれが抜けている」という出来事があってもそれは目を瞑っていただいてご覧いただけますと幸いです。
短期賃貸借制度の廃止
物件オーナーの金融機関への返済が滞ったり、税金の不払いなどが続くと最終的には差し押さえにあい物件が競売に掛けられることになります。ただ、この競売手続きがうまく進まない妨害行為が行われることがあり、それを防止するために制度が変わりました。
これによって、これから住むマンションで万が一競売にかかってしまったら明け渡しをしなければなりません。と説明するようになりました。(6か月間の猶予期間はありますけど)
最初にこの条文の通りの事例が起きたときは「あ~、そういう事になるんだ」とより理解出来た事を思い出します。
アスベスト問題
耐震強度偽装問題
かつてアスベスト(石綿)は生活の至る所で使われていました。耐火性、断熱性、防音性、絶縁性などに優れているという性質があったからです。しかし、人の健康に被害をもたらす危険性があることが分かり使用禁止となったのです。
2つ目の出来事は、11月に東京都、千葉県、神奈川県の3都県で合計21件の耐震強度偽装が発覚しまた事です。当時は連日このニュースがテレビから流れていたのを覚えています。
これらの結果、重要事項説明に、アスベストの調査を行ったか否か、その建物の耐震基準は新耐震か旧耐震か、耐震補強の工事を実施したかどうか。などの説明義務が加わりました。「しましょう」という意味ではなく、仲介会社としては「事実を確認してそのままをお伝えする」というものです。当時は不安を煽ってしまうような説明になり過ぎないよう注意が必要でした。
煙感知器(愛媛県の場合)
地デジ化完全移行
東日本大震災のあった年です。僕が転職した年でもあります。そのためいろんな記憶が鮮明に残っている年でもあります。
住宅への火災用煙感知器が義務化されたのもこの年でした。「煙用で寝室に」というのがポイントでしたが、随分誤解もあったようです。当時は1個がけっこう高かったはずです。オーナー様にも多くの方に提案しましたが説明には随分苦労しました。1棟、ファミリー向けで40戸くらいあるマンションの各室に取り付けにいった時は疲れました。お部屋の柱にネジを入れていくのですが、設置数が100個を超えて右手が捻じれて千切れそうになりました(笑)
地デジ化も大騒ぎになりました。「テレビが見れなくなる」という一種の誤報でもあったのですが、都会のVHFが使えなくなる。という情報が間違って全国に流れてしまった趣もあります。だいたいはアンテナの交換などなくても良かったはずです。この年にCATVが一気に普及しました。僕の実家では何を勘違いしたか地域のテレビアンテナを正月に外してしまって田舎中テレビが見られなくなるという事件が起こりました。(その年の7月24日が切替の日だったのに半年も早く対応しちゃったと言う事です)
宅建主任者から宅建士へ
この年に、「宅地建物取引主任者」という資格の名称が「宅地建物取引士」へと名称変更になりました。いわゆる「士業」の仲間入りです。その年に資格を取った人や資格者証の更新があった方は「宅建士」と銘打たれた資格者証に変わりました。それ以外の人は随時変わっていったはずです。業界の中では大きな話でしたが、僕にとってはあまり何も変わらない出来事でした。もっと責任の重たさなどを感じなければいけなかったんですけどね。
IT重説の運用開始(賃貸)
いよいよ、インターネット重説がはじまったという感じです。それまでは、「対面で」という決まりがあったので、市外や県外にお住いの方、お仕事が忙しく日中に自由な時間を作りにくい方にとっては、いつ重要事項説明を受けるのか?というのが業界でも大きなテーマでした。繁忙期などはとくに大変で、早く対面以外の方法でと切望されていたんです。コロナ禍でさらに実施案件が増えたと言えます。
建物状況調査(インスペクション)
主に、中古建物の売買に関する内容ですが、状況調査を行うかどうかの案内をし引渡し後のトラブルを減らそうという趣旨のものです。義務化されたわけではないのですが、専門家が調査を行う事により、
・取引よりも前に不具合個所があれば修繕出来る。
・インスペクション実施済と表示出来れば安心感を与えられる
(実施後1年間は有効)
といったメリットが得られますが調査は実費です。
民法改正
水害ハザードマップの説明
どちらも大きな出来事でした。民法改正は連帯保証人の考え方や規定が変わり(明記され)極度額という上限額を設けなければいけない事になりました。また、貸主さんの修繕義務についても必要な修繕を行うような内容が加わっています。ほかにもありますが借主さんを保護するような意味合いがより強くなりました。
西日本を中心に起きた豪雨水害によりハザードマップの説明が義務化されました。必要以上に不安を煽るのも良くないですが、正しく安心し、正しく不安に思うという事も大事。ハザードマップは想定被害なので、松山市などは僕たちが見ても「ここまで想定するのか~」と思ったりはします。でも、あの水害を経験してしまうとそれも納得できる面はあります。ただ過剰に危険を煽りすぎてもどうかと思います。日々葛藤です。
IT重説の運用開始(売買)
賃貸不動産経営管理士が国家資格に
IT重説は、いつのまにか(?)売買もOKとなりました。僕なんかは不安だからお会いしてしたいと思いますけどね。
賃貸不動産経営管理士は、この年に国家資格となりました。不動産会社も宅建士だけではなく、賃貸管理業に特化したこちらの資格も取得の奨励をすべきです。とても実務にリアルな資格です。
併せて、200戸以上の賃貸住宅管理業者には事務所ごとに資格者1名以上の設置義務も課せられました。僕たちは3店舗で運営しているので、3名は最低必要なんです。
いかがだったでしょうか?
不動産業界の歴史(流れ)を僕なりに紹介してみました。
意外と思ったより多かった。
その時、その時に思い出があります。
そして、生活に密着した仕事をしてるんだな。
という事を再認識した今日のブログでした。